第10章 十月十九日(土) -  5(5)

文字数 658文字

                5(5)


 一方由子の方は、いぜん心晴れないまま、

 特に何を思うでもない新年度を迎えていた。

 そしてひょんなことから、入学式の手伝いをすることになり、

 彼女も入学式の当日、体育館の中にいた。

 次々入場する新入生が、一年しか違わないのに妙に子供っぽく見えて、

 ――まったく、今ごろあなたは、どこで何をしているの? 

 本当であれば、去年あの中にいたはずなのに……と、

 体育館の端っこから眺めているのも辛くなる。

 本当は、椅子を並べ終えたところで帰っていいのだ。

 ――もう、帰ろう!  

 だから早速そう決めて、由子が出口に目を向けた時だ。

 ――ん?

 ふと、目に映った何かが気になった。

 記憶の隅にもあった何かが、不意に視線の端を横切ったのだ。

 なんだろう? 

 そんな疑問を意識する直前、再び新入生の列に目を向ける。

 この学校には制服がない。

 だからそれなりに入学式らしい格好ではあるが、

 思い思いの服装に身を包んだ姿が並ぶ。

 そしてその中にたった数人、詰襟姿が交じっていたのだ。

 中学時代目にしていたから、そんなのがちょっと気になっただけ。

 すぐにそんなことを心に思い、由子が視線を動かした時だ。

 それが一気に目に飛び込んだ。

 ――まさか……? 

 横並びの列、詰襟学生が目に入る。

 そしてその横顔だった。

 ――嘘……でしょ?

 どう見たって見覚えのある顔。

 どうして、さっきまで気付かなかった?

 ――ちょっと! ホントに!? 

 注意されることなどおかまいなしに、

 由子は列に向かって歩み寄った。
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