第4章 本田幸一  -   1(2)

文字数 1,029文字

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「いや、それがな、俺もぜんぜん覚えてなかったんだけど……」

「もう聞きたくないよ! 清水にしたって矢野って子にしたってだ、何を詮索
 したって、もう同期会に出て来れるわけじゃないんだ。そんなこと気にして
 る暇があるんなら……」

 ここまでは、多少の驚きを感じながらも黙っていられた。
 
 しかし次に放たれた言葉によって、
 
 幸喜の冷静さは一気にどこかへ消し飛んでしまう。

「……自分とこの、夫婦仲の心配でもしてろっての!」
 
 幸喜の眼前へ指を突き出し、幸一は力強くそう言い放つ。

 それからひと言ふた言言い合って、

 幸一がいきなり立ち上がり、そのまま店を出て行ってしまうのだ。

「原! 俺って何か悪いこと言ったか? あいつの気に障ることとか言ったの
 か? なあ、どうなんだよ〜」

「まあいいじゃないか。あいつもきっと、日頃のストレスが溜まってるんだ
 よ」

 そんなことを言い合いながらも、
 
 幸一が理由もなしに怒るはずがないと、二人してしっかり感じていたのだ。

 それから二軒ハシゴして、帰宅は完全に午前様。
 
 さらに明け方目を覚ますまで、彼は玄関口で寝てしまうのだ。

 朝、美津子に起こされれば完全なる二日酔いで、加えて喉が強烈に痛む。
 
 熱を測れば三十八度。とてもバイトへ向かう気分じゃない。

 ――参った! これも天罰か……。 
 
 そんなことを素直に感じ、
 美津子が出掛けてしばらくしてから幸一の病院へ電話を掛ける。

 熱がある。

 昨夜のことは水に流して、

 注射の一本でも打ってくれ……そう告げて、

 ついでに謝ってしまおうと考えた。

 ところが病院には出ておらず、彼は今日一日休んでいるらしいのだ。
 
 今日の午後から診察を休む。

 彼は昨日確かにそう言っていた。

 ――それって、続けて今日もってことだったのか……? 

 確かに、いくら仕事の虫と言えども、

 休診日以外に休むことだってあるだろう。

 そして今から思えばだが、
 昨夜の幸一はどこか何かがおかしかった。

 ――何か、あったんだろうか? 

 しかしいくら考えてみたところで、答えが見つかるはずもない。

 だからすぐに考えることを止めて、

 バイト先に電話して休むと告げる。
 
 そのまま蒲団に潜り込み、

 あっという間に深い眠りに落ちていた。
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