第10章 十月十九日(土) -  5(4)

文字数 493文字

                 5(4)


 国立病院などと違うから、

 そもそも重篤患者が担ぎ込まれることは滅多にない。

 それでも死と隣り合わせの状態で、

 幼子が運び込まれたりすることがあった。

 となれば、病院関係者が一丸となって、その子を救おうと努力する。

 そんな場面を目の当たりにして、彼はいろいろと思うのだ。

 結果手に負えず、大きな病院へ移すことになったり、

 努力の甲斐なく残念な結果に終わることもある。

 医師や看護師の落胆する姿や、

 時には号泣するシーンが彼の心に突き刺さるのだ。

 こんなのは、テレビドラマでしか目にできない。

 普通なら、お目にかかれない医療の現場に触れて、

 彼は、次第に思い始める。

 十二歳で亡くなった兄優一、そして同じく、

 一度も中学に通うことなく逝ってしまった直美のように、

 今も苦しんでいる子供たちは、きっとたくさんいるはずだ。

 ――医者になることは、俺にとって本当に……なんの意味も、

 ――ないのだろうか? 

 やがて心の奥底で、

 そんな疑問が湧き上がるのだ。

 そうなると、日に日に彼の生活態度も変わり始め......

 あっという間に、一年間が過ぎ去った。
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