第10章 十月十九日(土) -  4(2)

文字数 472文字

               4(2)


 ――来るんじゃ、なかった……。 
 
 確かそんなことを、

 ずいぶん歩いてからふと......思った。

 そしてそんな気持ちは、単に順子とのことだけではない。

 幸一はその時、立っている誰かに気が付いたのだ。

 いきなりしゃがみ込んだ順子の後方、

 塀際の暗がりにこっちを見ている姿があった。

「あ」と思った時には背を向けて、幸一はその場から逃げ出してしまう。

 制服っぽい姿であんなところに立っている。

 小学校時代の同級生が、

 中学の制服を着ていたのかもしれない。

 もしかしたらそうだったかと、彼は一度だけ立ち止まった。

 十メートルほど走って立ち止まり、順子のいた方を振り向いたのだ。

 すると視線のずっと先で、順子を抱きかかえる稔の姿が目に入る。

 ところがだ。

 どこを見回してもさっきの少女が見当たらない。

 さらに奥には斎場があって、

 そこは昼間のように明るいままだ。

 隠れようにも、あの短時間では隠れる場所などありはしない。

 幸一は瞬時にそこまで思って、

 ――直美……。 

 思わず、

 心で......その名を呟いた。
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