第7章 変化 -  1(3)

文字数 634文字

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 その瞬間、ベッド脇に椅子を並べて腰掛けていた。

 リクライニングを起こしていた直美との距離は、

 顔と顔でほんの五、六十センチというところ。

 そんな吐息だって感じる距離を、

 囁くような声と一緒に直美の顔が近付いたのだ。

 それから数秒、

 二人の唇はほんのいっとき重なり合って、

 そんなまさしく同じ時、病室を前にして順子が立った。

 間一髪で、二人の唇は偶然離れ、

 そうして数秒、目と目が合った瞬間だ。

 幸一は勢いよく立ち上がり、これ以上ない明るい声を出したのだった。

「とにかく俺、絶対に合格するから!」

 そう言った途端、彼は扉の方に歩み寄った。

 すると扉が勝手に動き、順子の姿が目の前にある。

 そこからの幸一は、

 どう考えたって普通じゃなかった。

 理由を知らない順子は呆れ顔、それでもそう悪い印象ではなかったようだ。

 そこだけは、直美も正直ホッとした……。

 ――でもどうして、あんなことしてしまったの? 

 嬉しかったのは間違いない。

 幸一の話す計画を聞いて、飛び上がるほど幸せな気持ちになれたのだ。

 そんな喜びのせいなのか……? 

 ふと気が付けばそうなっていて、

 なんでそうなったかなんて、未だに深い深い......謎のままだ。

 どうして? 

 なんて思うほど、治まりかけていた頬の火照りが、

 再び、舞い戻ってくるようだった。
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