第10章 十月十九日(土) -  2(5)

文字数 1,265文字

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 それからきっかり三十分後、定刻通りに同期会は始まる。

 やがて次回幹事も決定し、

 そこで幹事の役目もほぼほぼ終わりだ。

「美津子、お疲れ様でした」

 マイクを置いて戻った美津子に、明るい声でゆかりが言った。

 一方幸喜はその場に留まり、次回幹事らと何やらわいわい話している。

「あれ? 由子は?」

 席に着くなり、美津子が由子の所在を聞いた。

「さっきから、ずっとあんな感じよ……」

 ゆかりが見つめる先には、笑顔を見せ合う幸一と由子の姿があった。

 さっきまでの恥ずかしそうな印象は消え、

 由子が背筋をしっかり伸ばし、剥き出しの脚を見せつけている。

 そんな二人を見つめたまま、美津子は再びゆかりに聞いた。

「それで、あなたの方はどうなのよ、例の美容師さんとは、上手くいってる
 の?」

 由子のことには何も触れず、美津子はゆかりにそう聞いてから、

 ゆかりの方へ顔をゆっくり向けるのだ。

「何よ、いきなり……」

「なんだか羨ましそうに見てたから、どうなのかなって、思っただけよ、ほん
 の、チラッとだけね」

「美津子って、昔っからそういうのは鋭いよね」

「そう? 普通だと思うわよ」

「ま、いいか、わたしね、もうそういうのはやめにしたんだ」

「やめにしたって?」

「一週間くらい前にね、ちゃんと終わりにしましょうって、あいつに宣言した
 のよ」

「わ、やっぱりなあ、あんたそれって、本田くんの話に影響されちゃったんで
 しょう? ホントにあんたは、昔っから単純なんだから……」

「キッカケはなんだっていいじゃない。これからは、ちゃんと旦那を大事にし
 ていこうって決めたのよ! それに美津子だって似たようなものじゃな
 い? 欠席だって言ってたくせに、思いっきり出席してるし、旦那といきな
 り、幹事をしっかり始めちゃうしね」

 そこで大きなため息を吐き、ゆかりは再び、幸一らの方へ視線を向けた。

「でもやっぱり、わたし、衝撃だったなあ、あの話、だって十五歳だよ、十五
 歳の頃なんて、わたし死ぬなんて、意識したこともなかったわ。それに本田
 くんのことだって、なんか知れば知るほど、いろいろと考えさせられちゃう
 って、感じじゃない?」

 ――苦しんでいる子供たちを、一人でも多く救いたい。
 
 幸一が望んだそんな願いを、ゆかりはきっと言っているのだ。

「だからわたしもね、ちゃんと生きないとなって思ったんだ。それにね、実は
 わたしも喜んでたのよ。美津子たち、最近なんだか上手くいってるみたいだ
 なって。やっぱり美津子と向井くんには、いつまでも仲良くしててもらわな
 きゃ……」

 そんなゆかりの真面目な声に、美津子も途端にしんみりとして、

「そうね、ホント、ゆかりの言うように、わたしも思いっきり影響を受けてい
 て、そんなんできっと、今っていう時間があるのよね。だからもう一人、し
 っかり影響を受けてくれると嬉しいんだけど……」

「ねえ、乾杯しない? あの二人が上手くいきますようにって!」

 そんなゆかりの声とともに、

 美津子の視線も、由子と幸一へ注がれた。
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