エピローグ その行方(2)

文字数 1,013文字

          2  ゆかりと順子


 十二年前、ゆかりは一度、直美の母親を訪ねていたのだ。

 そしてその時母親は、

 直美がそうしたならと、ドッジボールのことも許すと言った。

 さらに直美が残した伝言を聞き、
 
 過去の出来事を軽く思えるようにはなっていた。

 ゆかりにとっての直美とは、幼稚園に入る前からの親しい友達だった。

 小学校に上がる直前に引っ越したが、小学校四年で嬉しい再会。

 美津子のように人を見下すこともなく、

 一緒にいて心から安らげる愛すべき友だった。

 それを突然、口を利くなと美津子に言われる。

 そうしなければ絶交だと告げられ、ゆかりは本当に苦しんだのだ。

 もちろんあの頃、直美自身だって辛かったはずだ。

 誰もが見て見ぬ振りで、彼女はずっとひとりぼっち。

 それなのに、初めてクラス会が開かれた時、誰一人彼女を覚えていない。

 美津子でさえそうだと知って、ゆかりは直美を探し出そうと心に誓った。

「さあ、直美ちゃんが来たわよ! どう? みんな、覚えてるでしょ?」

 無理矢理にでも連れ出して、クラス会で声高らかにそう声にする。

 そんなことを強く願って、クラス会後すぐに直美の親戚を訪ねたのだった。

 幼稚園の頃、駄菓子屋を営んでいた親戚の店に、

 何度か直美と訪ねたことがあった。

 ゆかりは迷いながらもそんな店を見つけ出し、

 そこで初めて直美の死を知る。

 その時の衝撃を、ゆかりは一生忘れないと思うのだ。

 ――嘘よ、そんなの嘘よ!

「誰かと勘違いしてませんか? 直美さんですよ、わたしと同い年の、矢野さ
 んのことを聞いてるんです! 心臓病で死んだって、いったい、誰のこと言
 ってるんですか!?」

 何を言っても納得しないゆかりへ、

 その親戚は直美の両親の居所を伝える。 

 そこに行けばわかると言われ、その足で知らされた住所をゆかりは訪ねた。

 鎌倉に移り住む前、直美の両親が住んでいたマンション。

 母親が在宅で、驚きながらもゆかりの訪問を喜んでくれた。

 その結果、少し時間は掛かったが、彼女はすべてを受け入れる。

 ところがゆかりはこうなってから、再び直美の母親に会いに行った。

 男のマンションから自宅に戻り、血の付いた衣服を脱ぎ捨てる。

 年賀状で住所を調べ、鎌倉にある矢野家へタクシーを飛ばした。

 すると順子は家にいて、あまりに変わり果てている。

 異様なほどやせ細り、

 まるで化粧っ気のない顔は、

 まさにグレー味がかっていたのだった。
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