第11章 2017鎌倉 -  1  1995年 直美の日記(最終話)

文字数 921文字

          1  1995年 直美の日記(最終話)


「どうしたの? 大丈夫? なんだか、顔が真っ青よ……」

 心配そうな由子に向けて、幸一は「何でもないよ」と笑って見せる。

 しかしこの瞬間も、悲しげな顔が脳裏に残って消えなかった。

 そうしてさらに、単なる偶然とは思えない、

 もう一つ気になるところもまだあった。

 そのすぐ隣に、美津子の顔があったのだ。

 直美は寄り添うように立っていて、美津子と触れ合うような距離にいた。

 美津子はその時、庭園の入口から悠治に向かって大声を上げる。

「見つかったらすぐ電話してね! わたし、ぎりぎりまでここで待ってるか
 ら!」

 そんな声に、悠治は背中を見せたまま、

 右手を振り上げリアクションを返した。

 きっとどこかで迷ってる。

 それしかないと、彼は駅への道を探しに出たのだ。

 ――まったく、肝心な時になると、いっつも迷惑掛けるんだから……。
 
 昔から、ずっとそうだった、などと思いながらも、

 ――我儘だったわたしのそばに、これまでずっと、いてくれたしね……。

 だから大事にしなきゃ、とも美津子は思う。

 そして時計を見れば、そろそろパーティーの始まる時刻だ。

 ――まあいいか、ゆかりが来るまで、わたしだけでも待っててあげよう!
 
 きっと今頃、心細い思いで必死にこちらに向かっている。

 だからわたしくらいは――なんて誇らしげな気分に酔いしれながら、

 美津子はその場にいようと決めた。

 そしてちょうどそんな時だ。

 隣に、誰か立っている? 

 吐息さえ感じた気がして、美津子は慌てて横を向いた。

 ところが誰もいなかった。

 ――あれ? 消えちゃった?

 まさにそんな印象だったが、すぐに気のせいだろうと思い直す。

 それから再び携帯を手に取り、ゆかりの番号へ電話を掛けた。

 着信を告げる音はしっかり聞こえる。

 しかしマナーモードにでもしているのか……? 

 ゆかりが出る気配はいつまで経ってもないままだった。

                
                 終


最後までお読みいただき、ありがとうございました。
この後に、ゆかりと、直美の母親、順子についての番外編「その行方」がありますので、
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