第9章 もう一つの視点 -  2

文字数 996文字

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 次の日、直美はいつもより一時間も早く登校した。

 最近ではよく息が切れ、ただでさえ歩くのがゆっくりだ。

 だから朝七時には家を出て、学校へ到着するなりあの本を探した。

 ところが教室には落ちていない。

 ――用務員さんが、拾ってくれたのかしら? 

 クラスメイトにさえ、拾われなければそれでいい。

 だから一件落着だ。

 そうなるはずだったのに、その後すぐに一難去ってまた一難。

 ――どうしてなの? 昨日は、あんなこと言ってたのに……? 

 美津子が突然、家に来たいと言い出した。

 断ることはもちろんだったが、

 別に、いいけど――そんな返事を声にもできない。

 だから回って来た紙の裏にそう書いて、

 休み時間に美津子の机の上にソッと置いた。

 一方美津子の方は、返事がない場合を覚悟はしていた。

 あんなことを言ってしまって、普通なら返事があるわけないのだ。

 それでももし、OKの返事が返ってきたなら……、

 ――ちゃんと謝って、仲直りするんだ。

 しかし声を掛けようとしても、きっと周りの目があって難しい。

 だから家を訪ねて、許してもらえるまで謝ろう……と考えた。

 そうして夕方、美津子は直美の家にいた。

 友達が現れて、直美の母親は心の底から喜んだ。

 直美からの声を無視し続けて、様々な話を美津子に向けて話し続ける。

 そんな話の大半は、やはり直美の病気に関わることだ。

「だからね、吉田さん、訪ねてきてくれて、わたしは本当に嬉しいの。いつま
 でも、直美のお友達でいて下さいね」
 
 そう言って、順子はようやく直美の部屋から出ていった。

「吉田さんごめんね。友達なんてうちにくるの、本当に久し振りだから、うち
 のお母さん舞い上がっちゃって、ホント、話し過ぎだし……」

 直美がこう言って微笑んだ時、
 美津子の我慢もとうとう限界を越えてしまった。

「今までほんとうに……ごめんなさい……わたし……」

 母親が出ていく少し前から、涙を必死に耐えていたのだ。

「吉田さん、いいんだって……わたしがみんなに、病気のこと、何も言わなか
 ったんだから、変に思われるのが普通だもん。それに、そうだってこと、お
 母さんは知らないの。だから逆にごめんなさい。本当に、気にしないで」

「違う……違うの……」

 美津子は声が震えて、それ以上が言葉にならない。
 
 それだけなんとか声にして、

 そのまま下を向いてしまうのだった。
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