第10章 十月十九日(土) -  3(2)

文字数 1,100文字

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 ところが美津子が手にするものは、

 どれもこれもがとんでもなく派手だった。

「ちょっとこれ、少しセクシー過ぎじゃない?」

 由子の想像をはるかに超えて、

 それらはまさしくパーティドレスそのものだ。

「ねえ、こんなちゃんとしたやつじゃなくて、もっと普通のやつでいいんだけ
 ど……」

「何言ってるのよ、あなた独身なんだから、少し派手なくらいでちょうどいい
 のよ」

「それにほら、白いファーがかわいすぎて、年齢的に、ちょっとなあ……」

 そう言って、別のドレスに手を伸ばそうとするが、

 なんだかんだと美津子がそうはさせないのだ。

 とうとう試着する羽目になり、

 あれよあれよという間に由子の右手には紙袋がぶら下がる。

 ところが、それで終わりじゃなかった。

「それにこの裾は......何? なんでこんなに短くなってるの? それにこのフ
 ァー! 買った時、裾にファーなんて付いてなかったじゃない!?」

 由子は鏡の前に立ち、そんな嘆きの声を上げるのだ。

 美津子は由子と別れてから、

 その足でゆかりの家へワンピースを持ち込んでいた。

 ゆかりはその手の専門学校を卒業していて、洋服の直しはお手の物。

 だから美津子の要望通りに小振りのファーを探し出し、

 ミニ丈となった裾に規則正しく縫い付けたのだ。

「ねえ、これ着るの、今日じゃなくていいでしょ? 今日はお願い、別の服で
 行かせて、ねえ、お願いだから」

「今日じゃなきゃいつ着るの? もう今日しかないって、いい加減覚悟を決め
 なさい! あなた自分で言ったのよ、サンタくらい、いくらでもなってやる
 って!」

「そんなの……酔ってて覚えてない……」

「それにいい!? 買ってもらったとか、無理やり着てるとか、絶対口にしち
 ゃダメだからね! そんなことしたら、うまくいくものも、うまくいかなく
 なっちゃうんだから!」

 まさに美津子の真骨頂だ。
 
 ここぞとばかりの迫力に、由子は途端に逆らう術を失ってしまった。

 結局すべては、自分の撒いた種だったのだ。

 ――サンタくらい、いくらでもなってやる!

「ねえ、わたし本当に、そんなこと言ったんだよね?」

 何ゆえそんなこと口走ったか、由子はまるで覚えていない。

 これまでどんなに酔っ払おうが、口にしたことなど一度もなかった。

 なのにあの夜、慣れ親しんだ囲炉の前で、次から次へと話したらしい。

 まさか、

 美津子のあからさまな話しように、

 つり合うよう気を使ったなんてことなのか……?

「美津子、わたし、どこの高校だったか、あなた知ってる?」

 由子はそう切り出して、

 ずっと隠し通してきた過去を、自ら語り出したのだった。
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