第11章 2017鎌倉 -  1  1995年 直美の日記

文字数 662文字

            1  1995年 直美の日記


 幸一くん、

 あなたはわたしにとって、幸せのサンタクロースそのものでした。

 あなたは、あきらめかけていたいくつかのことを、

 わたしに、思いがけなくプレゼントしてくれた。

 そんなかけがえのないあなたから、わたしはいつも、もらってばかり……。
 
 なのにわたしはあなたに、なんのお返しもできないの。

 わたしには、あまりに時間が残されていない……。

 だから、ごめんなさい。

 残念だけど、ほんとうはイヤだけど……、

 あなたを幸せにする役は、誰か他の人にゆずることにします。

 こうちゃんにとってのサンタクロースが……、

 いつかきっと、あなたの前に現れますように。


               *


「これが書かれたのが、高尾山に登った日の夜なんだ」

「そう、そうなんだ……、なんだかやっぱり、悲しいわ……」

 そう言って、由子は日記帳から視線を外し、眩しそうに空を見上げた。

「ねえ、わたしなれるかな? 彼女が認めてくれる、そんなサンタクロース
 に……」

「どうだろう? それはきっとさ、俺、次第なんじゃないかな……」

 ――幸一が由子を幸せにすれば、彼女はきっと、
 ――最高のサンタになってくれる。   

 そんなことを心に思って、

 幸一も由子の見つめるおんなじ空を見上げたのだ。

 二人は二年間の交際を経て、今日という日を迎えていた。
 
 そして直美の日記帳を持ってきて欲しいと幸一に頼み、

 ――彼女にも、一緒に参加して欲しいから。

 そんなことを由子は思い、

 今日一日そばに置いておこうと決めていた。
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