第4章 本田幸一  -   3(3)

文字数 1,173文字

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 幸一には元々、優一という三つ年上の兄がいた。

 サッカーが上手く、

 ジュニアユースから誘いがあるくらいだから相当だ。

 加えて勉強もよくできたから、

 両親は長男へ期待を寄せ、幸一もそんな兄が大好きだった。

 ところが小学校五年の終わり頃、優一が授業中に突然意識を失った。

 心配する周りをよそに、彼はあっという間に他界してしまうのだ。

 その頃、幸一には知らされていなかったが、

 優一の脳には大きな腫瘍ができていたらしい。

「彼のところ、三代続いてるお医者さんじゃない? だからね、それから彼
 は、お兄ちゃんの代わりになろうとがんばったんだって……」
 
 ところが兄優一は、
 ざっくり言うならあまりに多方面に優秀過ぎた。

 勉強なら幸一もそこそこできたから、それほどでもなかったのだ。

 ところが勉強以外がうまくない。

 特に運動やスポーツで、彼は徹底的に引け目を感じた。

 これまで何もやっていないから、

 両親を試合に呼ぶこともできないし、

 優一なら決まって選ばれていたリレーの選手にも選ばれない。

 そんな時、幸一は素直に悔しい気持ちを口にする。

 そうしてそんな幸一に、

 両親はいつでも優しい言葉を掛けるのだった。

「仕方ないわよ。次にまた頑張ればいいじゃない」

「そうだぞ、短距離がダメなら、今度は長距離でかんばってみればいい」
 そう言って、うな垂れる幸一に向かって笑顔を見せる。

 ――どうせ、僕なんかに期待していないんだ。 

 だからこそ簡単に、優しい言葉を口にできる。

 頑張ってもうまくいかない苛立ちが、

 きっと彼にそのようなことを思わせた。

「結局、お兄さんのようにはなれないっていうジレンマよね。後はやっぱり、
 両親への甘えだったって、彼、昨日しんみり言ってたわ。お兄さんは大好き
 だったけど、心のどこかで、ずっと嫉妬してたのかも知れないってね。それ
 で彼ね、中学に入ってどんどんおかしくなっちゃうのよ。ねえ、みんなは知
 らないでしょ? 幸一くんの通っていた中学、いろんな意味で、けっこう凄
 い学校だったのよ」

 そうなるにたやすい見本が、学校中至るところに転がっていた。

「おかしくなったってさ、それってグレるってことでしょ? それじゃあ彼、
 茶髪とかリーゼントとかにしてたってこと?」

 ゆかりがそこで初めて口を挟み、

「ええ? それはどうかなあ……もうその頃って、いかにも不良ってタイプは
 減ってたじゃない? だからいくらなんでも、リーゼントはないんじゃない
 かしら」

「いや、あいつしてたよ! 俺、今思い出した!」

 由子の声に被さるように、悠治の声が響き渡った。
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