第10章 十月十九日(土) -  2(3)

文字数 629文字

                2(3)


 直美が転校してきてすぐ、秋の学芸会が開かれたのだ。
 
 そこで演じられた寸劇が、直美の心を強くとらえて離さなかった。

 心臓病で死んだ少女が〝幸せのサンタクロース〟となり、

 残された母と妹の幸せのために奮闘する。

 劇の最後の最後には、奮闘の結果、少女は生まれ変わり、

 望んでいた幸せを手にできるという物語だった。

 主役を演じていたのが坂本由子で、

 大人になった少女と結婚する役を、

 本田幸一が演じていた。

 直美はそんなハッピーエンドに、強い憧れを抱いたのだ。

 もちろん心臓病という設定も、そんな感情への後押しとなったろう。

 だからきっと、彼女はサンタクロースのことを幸一へ告げた。

 そして今この時、幸一の脳裏にも大昔の記憶が浮かび上がる。

 ネック周りに袖口と、太腿辺りの裾に真っ白なファーがあしらわれ、

 さすがに裾のものは小振りだったが、

 それでもその存在感はなかなかなものだ。

 きっと、ラメか何かのせいだろう。

 赤いワンピースはライトに照らされ、ピカピカと輝いて見えるのだ。

 それからさらなる極め付きが、彼女の頭の上にもあった。

 やはり真っ赤なニット帽が、

 白くて丸いボンボンを付け、頭にすっぽり乗っている。

 ――まるで、サンタクロースじゃないか!? 

 すぐにそうは感じたが、最初は誰だかわからない。

 幸喜に遅れて目を向けた時、すでにその姿は背を向けていた。

 しかし次に放たれた幸喜の声で、やっとその正体を知ったのだ。
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