第11章 2017鎌倉 -  1  1995年 直美の日記(2)

文字数 1,447文字

1  1995年 直美の日記(2)


「でもさ、よかったのか? ちゃんとした披露宴会場じゃなくって」

「もう、何度言わせるの? わたしはそんなの経験してるんだから……、それ
 に、今さら何言ったって手遅れじゃない」

 そう言って笑う由子はすでに、ウエディングドレスに包まれている。
 
 そしてその腕の中には、さっきまで眺めていた日記帳がしっかりあった。

 二人はつい先ほど教会で結婚式を挙げ、

 十人ほどの親族を引き連れこの庭園へやってきた。

「わたしたちには両親がいないし、親戚だって少ないんだから、披露宴はやめ
 て、パーティーっぽくにしない? そうすれば、みんなとたくさん話せるし
 ね……」

 由子のそんな希望によって、

 ホテルの庭園を借り切ってのことになったのだ。

「それにしても、まだゆかりが来てないんだって? どうしたんだろう? ち
 ょっと、美津子に聞いてこようかしら?」

 まもなくパーティーが始まるというのに、まだゆかりが到着していない。
 
 そんなことを心配すると、二人の後ろから幸喜の声が響き渡った。

「おいおい由子、今日おたくは主役なんだから、そんなこと気にしなくたって
 いいんだって、今さ、そこで美津子が電話してる。どうせあいつのことだか
 ら、あっちこっち迷いながら歩いてるんだって……」

 そう言ってから、親指を立て、そのまま右方向を指差した。
 
 するとそこには美津子が携帯を耳に当て、

 ウロウロと歩き回っている姿がある。

 さらに裕治がそばに立ち、心配そうに見守っていた。

 そこは鎌倉あるそこそこ大きいホテルで、万一雨になっても、

 庭園と隣接する室内にパーティースペースも確保してある。
 
 そんなところで今まさに、二人のパーティが開かれようとしていた。

「しかしさ、本当にいい天気だよなあ。いわゆる秋晴れってのは、こういうの
 を言うんだろうなあ」

 大きな日除けから一歩踏み出し、

 幸喜が空を見上げてそんなことを言った。 

 すると続けて幸一も、彼の隣で嬉しそうに声を上げる。

「でもまさか、こんなにたくさんの人が集まってくれるとは思わなかったよ。
 天気もだけど、ホント、ありがたい話です」

 百人は優に超える招待客のうち、きっと半数近くは何十年ぶりの顔ばかり。
 
 十月の第三土曜日、そんな日に行われる結婚披露のパーティは、

 第十二回目となる同期会を兼ねてのものだ。

「こんなに集まってくれる? 幸一、相変わらずお前さんは甘いな」
 
 嬉しそうに話す幸一へ、幸喜がさらに、そんな楽しげな声を出す。
  
「そりゃあな、ただ! だからに決まってるだろ? もし金取ってたりして
 み? 絶対半数は欠席になってるって。もちろん俺も、ただ飯食えるから来
 てるんだぜ〜」

 今日という日から半年くらい前のこと、

 幸一は幹事に今回の計画を打ち明けたのだ。

「こっちとしてはさ、来てもらえるだけで嬉しいんで、会費はもちろんだけ
 ど、祝儀なんてのもなしってことにしてさ、そうすれば、ちょっと遠出にな
 っちゃうけど、きっとみんなにも許してもらえるだろ?」

 こんな申し出によって、

 これまでで一番多くの同期生から出席したいと返事が返る。

 そんな同期生らは、まさに卒業以来というものも多かった。
 
 だから庭園のあちこちで、懐かしの再会騒ぎが起こっている。

 きっと幸喜もそんな中に、懐かしの人物でも見つけたのだろう。

「それじゃあまた」といきなり言って、

 誰かを目指して一直線に走っていった。
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