第8章 直美の日記 -  1(3)

文字数 841文字

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 きっと、こんな日の数日前、

 もしかしたら前日だったのかもしれない。

 直美の日記も、意識を失う直前に書かれたものが最後となった。

 そしてそんな頁を目にした時に、

 過ぎ去ったはずの年月が、一瞬でどこかへ消え去ってしまった。

 どうしようもなく心が震え、

 直美への愛おしさに涙が溢れ出て止まらない。

 そこに、確かに文字はあったのだ。

 ところがどう見たって直美のものとは思えない。

 美しかった彼女の文字は別人のようにはかなく揺れて、

 辛うじて……力ない線だけを頁の上に残していた。

 本当ならば、たった数行で終わってしまうようなもの。

 そんな短い文章が、四頁に渡って、右へ左へ綴られている。

 一つ一つが好き勝手に歪み、まるで子供の字のように大きくなった。
 
 
 ――きっとわたしは もうすぐ死ぬ。 

 ――もうあえない そんなのいやだ。 

 ――こうちゃん、あいたい、あいたい、あいたい、あいたい。 

 
 
 薬のせいか? 

 あるいはすでに、そんな状態ではないのだろう。

 それはまさに、必死に書き綴ったという印象そのもの……で。


 
 ――しけん おわったら 病いんきてもらう。 

 ――パパにおねがい 忘れないようにしない と 

 ――さいきん わすれ......。


 
 そんな最後の文章は、途中で、力尽きたように終わっていた。

 そして、最後となった直美の望みも、偶然、幸一によって叶えられる。

 少なくとも試験日の夕方、幸一は病院には来ていたのだから。


 
 ――もうあえない、そんなのいやだ。 

 彼が病院へ駆けつけた時、

 ――こうちゃん、あいたい。 

 すでに直美は昏睡状態に陥っていた。

 ――あいたい。 

 だからいくら叫んでも、

 ――あいたい。

 直美の耳には

 ――あいたい。

 彼の声は届かない。

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