第10章 十月十九日(土) -  2(4)

文字数 1,275文字

                 2(4)


「由子ほどじゃないけど、よく見りゃさ、美津子もゆかりも、もの凄いカッコ
 じゃないか?」
 
 ――あれ、由子なんだ……。

「なんだってまた、あんな格好で来ちゃったんだ? だいたい俺、美津子のあ
 んな服、見たことないぜ?」

 そんな幸喜の見つめる先で、美津子はスパンコール付きのワンピース姿。
 
 そんな姿は由子以上に、ライトに反射して輝いて見えている。

 一方ゆかりは、透けているように見えるレース生地で、

 これでもかというくらい全身をぴったり締め付けていた。

 やがてそんな三人が、ゆっくり幸喜らに近付いてくる。
 
 美津子とゆかりに限っては、きっとこんな状況を楽しんでいるのだ。
 
 その歩き方からいつもと違って、胸を張り、

 さっそうと歩く姿はそれなりだ。

 ところが赤いワンピースの由子の方は、早々に帽子を脱いでしまって、

 下を向いたまま恥ずかしそうに歩いている。

「おお、由子! メリークリスマス!」

 幸喜が高々と手を上げて、そんな由子に大声を上げた。

 すると由子は一気に駆け寄り、やはり下を向いたまま必死に告げる。

「もう! そんな大声出さないでよ!」

 見れば彼女一人だけ、ワンピースの丈がひと際短い。

 そんな裾に両手を添えて、由子は必死に声を抑え、

 それでも力を込めて幸喜に言った。

「こっちはね、ただでさえチョー恥ずかしいんだから!」

「何言ってるのよ! かわいいじゃない! きっとさ、ショートカットの由子
 だから似合うのよ。こんなのわたしが着ちゃったら、場末のホステスになっ
 ちゃうわ」

 すると美津子が顔を突き出し、由子の後ろからそう言って笑った。

 そんな美津子の言葉は、確かに一理あるのだった。
 
 美津子とゆかりは二人とも、長い髪に軽いパーマを掛けている。
 
 さらに美津子は痩せていて、一方ゆかりといえば、

 日々ダイエットを口にしながら痩せる気配はまるでない。

 ならば場末のホステスは言い過ぎとしても、

 由子のように「かわいい」などとはならないだろう。

「何がかわいいよ! わたしは三十七歳なのよ? まったくもう! どうせバ
 カにしてるんでしょ? いいわよ、笑いなさいよ! どうぞ思いっきり笑っ
 てください!」

 満面の笑みの幸喜らに向け、由子はそう言って胸を張り、

 笑わば笑えと仁王立ちをして見せた。

 するとやっぱり真っ先に、幸喜が笑いながらに声にする。

「いや、バカになんてしてないって!」

「何よ! もう充分笑ってるじゃないの!」

「違うって! まあ聞けっての。いつものおまえって、だいたいジーパンにT
 シャツって感じだろ? それがいきなり、これだもん、誰だって笑っちゃう
 くらい驚くだろ? たださあ、どうしていきなり、サンタさんになっちゃっ
 てるの?」

 そんな幸喜の問い掛けに、慌てて顔を美津子に向ける。

 すると口角だけをキュッと上げ、由子を見つめながらに美津子は言った。

「そうよ、彼女は今夜一晩、れっきとしたサンタクロースなの、ね、由子!」

 そう言って、

 首を思いっきり傾ける美津子に、

 由子はただただ苦笑いを見せた。
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