第10章 十月十九日(土) -  5(2)

文字数 531文字

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「ああそうか、こいつが休学か……」

 そう呟いてから、名簿に万年筆で二本線を書き加えた。

 ――休学!? 

 ――それって何よ!

 ――どうしていきなり休学になっちゃうわけ?

 次から次へと言葉は浮かぶが、理由の端っこさえ思い付かない。

 一年生の、それも入学式さえ出ないまま......、

 実際休学なんてあり得るか!? 

 聞き違いだったと由子は祈るが、すぐに、そうではないと知ることになる。

 確かに本田幸一は、一年間の休学を申し出ていた。

 そしてそんな場合の多くについて、その生徒は二度と登校してこない。

 それが現実なんだと後から聞かされ、由子は相当ショックを受けた。

 一校しか受験しないと、単純に信じた自分が馬鹿だったのだ。

 今から思えば、疑って当然の話だろう。

 なのにそんな話を聞いた時、

 ――なんか、彼らしいな……。

 なんて感じて、そのまま素直に信じ切ってしまった。

 きっと彼は今頃、別の高校で楽しくやっているに違いない。

 そんなふうに由子は感じて、

 日々悔やみ、どうしようもなく落ち込んでいた。

 ところがその頃、彼はどこの高校へも通っていない。

 そもそも他の高校へ行ったのであれば、当然、

 休学扱いなどにする必要はない。 
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