第10章 十月十九日(土) -  2

文字数 897文字

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「なんで一緒に居てくれるのかって、わたしまだ、答え聞いてなかったね?」

 高尾山山頂で、直美は幸一に向けて、そんなことを再び言った。

 だから困った顔のまま、

 その先にあるベンチまで、直美を背負って歩いたのだ。

 それから気まずい沈黙の中、直美の母親が作ってくれた手弁当を広げる。

 それはまさしく女の子らしい弁当で、色とりどりのおかずが並び、

 幸一の見慣れている量優先ってのとは大きく違う。

 腹は思いっきり空いていた。

 だから直美の「どうぞ」を聞くなり、卵焼きと握り飯に手を伸ばす。

 そうしてあっという間に折り詰め一つが空になった。

 ところが直美が一向に食べない。

 握り飯を半分だけ口にして、

 後はいらないと言って力ない笑顔を見せてくる。

 結局残りのほとんどを、やっぱり幸一が平らげたのだ。

「うまかった! 直美の母さん、料理上手なんだな。うちのお結びなんて、三
 角じゃないんだぜ、米俵みたいなカタチしてんだ」

 こんな明るい声にも、直美はちょこっと笑うだけだ。

 一応話はするし、笑顔だってまあ見せる。
 
 ただいつもより妙に物静かで、口数だって格段に少ない。

 時折思い詰めるような顔になり、何もない空間に目を向けたりするのだ。

 顔色もずいぶんよくなったし、具合が悪いわけではないだろう。

 なのにぜんぜん楽しそうじゃなかった。

 ――きっと、何か言ってくる……。

 そしてそんな言葉は、幸一にとってありがたい話ではきっとない。

 そんな予感が湧き上がったところで、

 ボディーブローのようにズシンと響いた。

「幸一くん……」

 幸一を見ないまま、呟くような声だった。

「わたしたちって、付き合ってるのかな?」

 そんなか細い声に、慌てて直美の顔に目を向けた。

 すると直美は何かをジッと見つめている。

 視線の先を追ってみると、大学生くらいのカップルが、

 向かい側のベンチにぴったり寄り添い腰掛けている。

 こんな時はなんであれ、間を空けるのは得策じゃない。

 ああだこうだ考えているうちに、ますます答え難くなっていくのだ。

 さっきの失敗を繰り返さぬように、

 彼は浮かんだ言葉をそのまま言った。
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