理子の闘い

文字数 431文字

 檜皮さんと樫井さんの関係がただならぬことになっているのは何となく感じていました。

(……どうしよう?)

(……分かんない、言霊使いっていうか……男の子のこと)

 私が立ち入ることもできないまま、神楽の当日を迎えてしまったことは、本当に申し訳なく思っています。何かできたなら、いえ、何かしていたなら、こんなことにはならなかったかもしれません。
「始めさもらへ、始めさもらへ……。」

(……何? この、肌にゾクっとくるの)

(……樫井さんが……炎を?)

「……日御子の宣らしたまふや、汝このくにに来してひととせ、ふたとせ、長きにわたれば、とこしえの恵みを賜はん」

(……雲? 私、呼んでないのに)

(……檜皮さんが、闘おうとしている!)

 そうなれば、ますます私の入り込む余地はありません。

 しかし、私の身体だけでなく、檜皮さんの身体に火が付いたとき、もう放っておくことはできませんでした。

「受けたまへ、受けたまへ、我みとせ、よとせ、とこしへに、日御子の恵みにて、五種の穀やすらへん」
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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