真珠のしずくが彼女の目に光る

文字数 474文字

汝(なんじ)って漢字、読めませんか?
(……読めないんじゃなくってさ、読めるよ、読めるけど)

 うかつに読んではいけないのです。読んだら最後、とんでもないことが起こります。

 それなのに、あなたは一歩進んで詰め寄りました。

読めませんか?

(……どうしても読まなくちゃいけない?)

(……そもそも、何でここまでムキになるの?)

 途方に暮れたところに、ぐいと眼前に迫るあなた。

これ、読んでもらわないと困るんです。
(……帰っていいんじゃないか?)

 朝から呼び出されて、訳のわからないものを読まされて、読まないで済まそうとしたところを責められる。

 僕には何の非もありません。雰囲気的に反論は無理ですが。

 でも、黙って帰るのは難しくありません。相手は年下の女の子です。

 そんな卑劣なことまで考えたそのとき、僕は気付きました。

……。
 あなたの目に光るものに。

 真珠のしずくにも喩えられるものに。

(……涙?)

 そのとき、空はうっすらと白くなりました。

 一瞬だけ、天から吹き降ろしてきた春の風。

 あなたの涙をそれでむざと落とすに忍びなく、僕は覚悟を決めたのです。

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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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