奥方の優しさ美しさ
文字数 620文字
思わず身構えてしまいましたが、門を開けて出ていらっしゃったのは、物腰の優しい、たおやかな感じのする方でした。
理子さんが顔を背けたのは、門限破りの後ろめたさからでしょうか、男と帰った恥ずかしさからでしょうか。それを咎めることもなく、お母様は僕に向かって丁寧に頭を下げられました。
恐縮する僕に、お母様は優しい気遣いの言葉をかけてくださいましたね。
理子さんが一瞬、立ちすくんだような気がしましたが、お母様のおっしゃったのはもちろん、お愛想だったでしょう。
京都のお茶漬け的な。
もちろん、ここはお断りするのがマナーなのですが、お母様の上品さに打たれて、しどろもどろでさっさと逃げてくるしかありませんでした。
そのとき背中に感じた理子さんの視線は、これまででいちばん冷ややかだった気がします。
帰宅した僕を、父はたった一言で出迎えました。
努めて平生どおりの返事に一言で答えた父は、もう何も聞きませんでした。