春の嵐と祭の終わり

文字数 474文字

(……豹真の……炎?)
 瞬く間もなく、舞い続ける理子さんの巫女の衣装の周りにふわりとしたものが立ちのぼりました。
あ……あああああっ……!

(……理子さん!)

(……熱っ!)

 全身が灼けついたかと思うとほどなく空が光り、テントに炎が走って衣装が燃え上がったかと見えた、その時です。
きゃあああああ!
 凄まじい風と共に、雨が塊となって僕たちの頭上から落ちてきました。
ひえええええ!
押さないでください! 慌てないで! みなさん、こちらへ! こちらへ!

 役場の避雷針に雷が落ちると共に悲鳴を上げて逃げまどう観客は、ふりしきる豪雨の中で蜘蛛の子を散らすようにいなくなり、そこには茫然と立ち尽くす町内会の人たちと、祭壇の上でびしょ濡れになってへたり込んだ僕たちだけが残されました。

……。
……。
 やがて、誰かが我に返ったのでしょう。町の有線放送のコールサインが鳴りました。
悪天候及び川の増水のため、本日の行事は全て中止いたします……町民のみなさま、充分に気をつけてお帰りください……。

 町役場の人が聞き取りにくいくぐもった声で、神楽を含む春祭りの中止を告げていました。

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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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