父の青春

文字数 412文字

 父の若い頃の姿は、なぜか今の僕と重なりました。それは豹真の、そして、かつての父の屈折した思いを受け止めることができたからかもしれません。

『樫井! なぜ世間の片隅に隠れて生きなければならない! 普通の人間とは違うんだぞ、この力は!』

 そんな父を、豹真の父は懸命に止めたのだそうです。
『力に溺れるな、檜皮! それを使って社会の闇に沈めば、お前は世間の片隅から出てこられなくなる! 静かに暮らせ……ここで!』
『構わん! 俺は隠れるんじゃない、こことは別の世界で生きる! 普通の人間の住まないところで!』
『已むを得んか……ならば、決闘だな。住み慣れたこの地を去ることになろうとも、お前を行かせはせん』
『いいだろう……来い』
『……火の立つや、火の立つや、一・二・三・四、炎立つ、炎立たば野に広ごりて、日となりて昇りて天翔け、返り見れば夕べに沈まん!』

『遅い! ……汝、蛇、汝、虹、響み鳴れ! 鳴る神、天つ神、剣太刀とも降り来たれ!』

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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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