彼女に見せてはいけない秘密
文字数 692文字
言葉は丁寧でしたが、ちくちくトゲがありました。
本当のこと言うと、怖かったのです。
僕はおとなしく従うことにしました。そういうことにしてるんです、こういうときは。
昔から。
稽古場の外に呼び出されたとき、よく晴れているとはいっても桜が咲く前の空気は、まだ冷たいものでした。
その春先の気候並みにぞくっとさせてくれたものです、あなたのまなざしは。
逃がすまいというつもりか、僕を公民館の戸を背にして立たせ、長い黒髪をさあっと撫でるなり、一呼吸おいて言い放ってくれましたね、結構失礼なことを。
ムカッときました。
確かに、僕の頭はたいしたことありません。せいぜい……。
でも、はじめて渡された昔の言葉をきちんと読めなかったくらいでそこまで言われる筋合いはないと思います。
思ったことの半分も言えないのは、ひとえに僕の性分のせいです。
それでも、あんなに怒られるとは思いませんでした。
決して、意地も見栄もないせいではありません。そもそも、あの場で見せる必要がなかっただけです。
さらに、もう1つ理由がありました。
僕には、口にしてはいけない言葉があるのです。
あのとき、口ごもったのも、そのせいでした。
それなのにあなたは、僕にそれを繰り返させようと迫りましたね。