豹真との決着

文字数 538文字

(……やめてくれないかな、忙しいんだから)
 夜が明ければ、新学期前の出校日です。朝いちばんで編入辞退を届け出て、町を出て行かなければなりません。
こっち、こっち!
 ちょいちょいと差し招くと、豹真があの不機嫌な態度まるだしで歩み寄ってきました。
俺、出ていくから。
家出……?
 余りに唐突なことなので、さっぱり訳が分かりませんでした。近所の人に聞かれたくないので、小声で問い返さなくてはなりませんでした。 
そうじゃねえよ……町を出るんだ。
何で? 君の方が早かっただろ?
 実際に、僕や理子さんの衣装は燃え上がる寸前でした。これが西部劇みたいな拳銃の決闘だったら、誰が見たって僕の負けです。でも、豹真は妙なところにこだわりました。
あの雨でパアになったろうが。
でも、そんなこと言ったら僕だって……。
 雷は避雷針に逸れてしまったのです。豹真に勝ったとは言えません。それでも、豹真は自分の勝ちを主張するほど図々しくはありませんでした。
別にジャッジがいるわけじゃないだろ……バカはどれだけ傷ついても仕方がない、それだけだ。
おい……。
じゃあな。刀根理子とうまくやれよ。他の男に取られんな。
 大きなお節介をそう言い残すなり、豹真は走り去って、それっきりです。僕は次の朝、父と共に四十万町を去りました。
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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