祝詞の始まり

文字数 520文字

 言葉に詰まったところで、公民館の鍵を開けにきた町内会長さんに救われました
 ……いよっ、ご両人! ええなあええなあ、若いもんは……。
……!
そ、そういうんじゃないです……!
 ものも言わず、ただ真っ赤になった理子さんを追いかけるようにして、僕も公民館に駆け込みました。
あの……今日はどこから……。
……みなさんに、聞いてください。
豹真は大人たちが集まった後に、横笛の音源CDを持ってやって来ました。
……。
……。
でも、僕を見ても、ろくに目を合わせもしませんでした。

 じゃあ、昨日の続きから。

 始めさもらへ、始めさもらへ、日御子の宣らしたまふや、汝……。

 祝詞の練習は、最初だけ飛ばされました。当日まで1週間を切っていたからですが、僕は気に病むことはなく、むしろせいせいしていました。
この国に来して ひととせ、ふたとせ、長きにわたれば、とこしえの恵みを賜はん。
受けたまへ、受けたまへ、我みとせ、よとせ、とこしへに、日御子の恵みにて、五種の穀やすらへん。

 本来、数日で終わることになっていた練習です。祝詞の量も大したことはありません。

 雷を呼ぶ、古代の「蛇」に関係した言葉さえなければ、どれだけ正確な発音や抑揚を求められようとも、どうにでもなるのです。

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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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