雷(いかづち)と炎(ほむら)と
文字数 712文字
僕はジャージを脱ぎ始めました。脱いだものを片端から地面の砂に叩きつけていると、今度は靴下に、そして下着に火が付きます。僕は構わず脱ぎ続けました。
豹真の金切り声を聞き流し、僕は最後に残った腰の一枚に手を掛けました。
僕は笑いました。
これで全裸になる、というところで、豹真は僕に飛びつきました。
どうやら、こういう結末はプライドが許さなかったようです。
相当慌てたのでしょう、荒い息の合間に鼓動が聞こえるようでした。
腹の中で毒づきながら、僕は脱いだ服の砂を払って再び身に付けはじめました。
豹真は諦めたのか、ものも言わずに背を向けて、歩み去っていきます。
安心したのも束の間、羽織ったジャージのファスナーを上げたとき、あの悪寒が、再び襲ってきました。
術者の悪意を背負った、言霊の気配が。
僕は覚悟を決めました。
とっさに叫ぶと彼方の山の向こうが一瞬だけ陰り、稲妻が一瞬閃いたかと思うと、微かな轟きが聞こえました。
これが、僕の言霊です。「なじ」「なんじ」あるいは「にじ」。
どれも「蛇」を意味する古代の言葉に由来するものですが、その時代には稲妻も虹も「天空を駆ける蛇」と捉えられていたらしく、それが言葉に力を持たせる源となっているようなのです。
遠い空で雷が鳴った瞬間、ぞっと来る感触は失せました。振り向いて見ると、ごつい大岩が転がる山の中の採石場から、豹真の姿は消えていました。