公民館での出会いまで

文字数 500文字

……出会った時から、印象は最悪じゃありませんでしたか? 町内会長さんから紹介されたとき、小さな公民館のストーブの前でぼうっと座っていたあなたに、僕は返事をしませんでしたね。
……。
……。
 そのくらい、僕の気持ちは動転していました。

 あの山間の町に転校して1週間は、新居の準備やら制服の仕立てやらで町内を走り回り、それがようやく一段落ついたところで、いろいろ親切にしてくれた町内会長さんが話を持ち掛けてきたのが前日、4月1日。

 荷物はレンタカーのワゴンに積める程度のものしかありませんでしたが、前日までの引っ越しで疲れてしまい、昼近くまで寝ていた僕の頭は完全に呆けていました。

 神楽に出てくれないかと頼まれて、何が何だか分からないうちに安請け合いしてしまったのですが、せめて、『カグラ』という言葉の意味だけでも聞き返すべきでした。

 夜遅くになって、やっと転職先の年度初め業務から帰ってきた父は、僕から話を聞くなり、不機嫌な一言だけ残すと、一風呂浴びて寝てしまいました。

勝手に決めるな。
 その父は、今、列車の通路の向かいで寝ています。ちょっと遠い所に引っ越すので、車の運転がしんどくなったんだそうです。
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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