豹真の挑発

文字数 496文字

 うすぼんやりと晴れた空の下で、僕たちは乾いた砂を踏みしめ、向かいあって立ちました。

 場所的にも雰囲気的にも、昼食は遅くなりそうでした。

悪かったよ、代わってもらって。
 とりあえず謝っておくことにしましたが、豹真の怒りのポイントは、そこではなかったのです。
やれって言ったろう。
 どうやら、僕が祝詞を上げなかったことを言っているようでした。 
それは無理だよ。
根性なしが。
 この力を人に知られたら、また引っ越さなければいけません。まるで趣味であるかのように。

 父は転職三日目で、辞表を出さなくてはなりません。根性なしの新入社員でもないのに。

 しかし、豹真にとってそんなことは知ったことではありません。

 彼は、僕に言霊使いのプライドがないと思っているのです。

人に知られたら、また引っ越さなくちゃいけないだろ。
趣味で引っ越すヤツもいる。
 父さん、仕事辞めなくちゃいけない。転職3日目で。
仕方がない。俺たちの宿命だ。

 ……因みに、この手紙を書いている時点でその父はまだ、僕の目の前で寝息を立てています。

 確かにこんな人ですが、豹真にどうこう言われる筋合いはありません。

 ムッときたのを、冗談で流しました。

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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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