雷と、雨と
文字数 525文字
風と共に、布の焦げる臭いが微かに漂ってきます。
豹真は「何を?」とでもいうように苦笑します。
ますます強くなる風に、理子さんのヤッケからは、煙が目に見えて吹き散らされていました。
どんどん正気と冷静を失っていく声に誘われるかのように風は吹き乱れ、辺りは次第に暗くなっていきます。
僕が空を見上げて「ナジ」と呼びかけようとしたとき。
既に低く垂れこめていた暗い雲から、土砂降りの雨が降ってきたのです。こうなっては、いくら豹真の言霊でも火を放つことはできません。
豹真が舌打ちするなり、岩から飛び降りて駆け去っていったあと、叩きつける雨の中、理子さんは茫然と立ち尽くしていましたね。
駆け寄った僕に背中を向けて突き放したそのひと言は、泣いているようにも聞こえました。
僕は何も答えられませんでした。ヤッケのフードを引き出して頭にかぶるなり、理子さんは行ってしまったからです。
そう言い残して。