日の御子を迎える祝詞

文字数 488文字

早うやって早う終わっとくれん? 受験生やもん、私。
……あ、ああ、そうやった、すまんなあ、理子ちゃん。
 町内会長さんにはきついことを言っていた理子さんですが、僕が大人から何度ダメ出しをされても、自分の番が来ないことに表情も変えず、ずっと同じところに立っていましたね。
  始めさもらへ、始めさもらへ、日御子の宣らしたまふや、汝(なれ)……。
 ほうやない、「なんじ」! ほれ、もっぺん!
 お囃子のCDを流すプレイヤーのボタンを押す樫井豹真はと見れば、その指にムダな力が入り、デッキを壊すのではないかとさえ思われました。
……! ……!
 早い話が「なんじ」と言わなければいいのですが、それは通りませんでした。「なれ」を「な」と読んでも同じことです。
 もうええ……豹真君、やってみとくれんか。
……俺? ……は、はい!

 とうとう、僕は休まされ、目を輝かせた樫井豹真が代役に立ちました。

 ストーブの前にうずくまって見ていると、理子さんとの祝詞のかけあいが始まりました。

 豹真はあなたのそばに立っても、大して背の高さは違いませんでしたが、その立ち居振る舞いは実に堂々としたものだったと思います。

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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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