暗闇を這う光の蛇

文字数 474文字

始まった……。
 これは憶測ですが、言霊「ほむら」と共に、横笛の技も引き継がれたのではないでしょうか。

 豹真の挑戦のはじまりでした。闘いぬかなければなりません。

始めさもらへ、始めさもらへ……。
 そのとき横笛の音は止まりましたが、そのくらいのことで、始まってしまった神楽を止めることはできなかったでしょう。

 ましてや、伝統の「日御子神楽」に気を取られている関係者と観客に、豹真の操る「ほむら」が聞こえるわけがありません。

(……動いた!)
 体中を悪寒が走り、豹真の言霊が働き始めたのが分かりました。
火の立つや、火の立つや、一・二・三・四、炎立つ……。

 急がなければなりません。僕は目を閉じ、心の中に閃く稲妻と向き合いました。心の闇の中を疾走する、閃光の蛇と。

 やがて、身体の中をぞろりと這うものがありました。

 これが、僕の中に潜む「ナジ」……上代の言葉で「蛇」を意味する言葉です。

……日御子の宣らしたまふや、汝このくにに来してひととせ、ふたとせ、長きにわたれば、とこしえの恵みを賜はん。
 祝詞に乗せて、僕は心の中の「稲妻の蛇」を天空へと解き放ちました。
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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