豹真の誇り

文字数 460文字

 断っておきますが、僕は豹真との間で起こったことを正直に書いているだけですので、どうか誤解なさらないでください。

 さて、豹真は僕に向き直るなり、真顔で尋ねました。

まだ、あのヘタクソな祝詞を続ける気か?
ああ。

 やめるつもりはありませんでした。そんなことをすれば、あなたの冷たい軽蔑の眼差しを浴びることになります。

 いや、それよりも、あの泣いているような声を聞くことになるかもしれません。そのときの僕には、それがたまらなくつらいことに思われたのです。

……分かった。
 そのまま歩を速める豹真の、妙に素直な返事が気になりました。急いでついていくと、煩わしそうな問いが返ってきます。
つまり、本番までお前の力をごまかし通すということだな。
そんなことは当たり前だ。

 はっきり言い返しました。それが言霊使いの掟です。豹真にはそれなりの誇りがあるのでしょうが、僕には僕の守るべきものがあるのです。

 お互いに、闘わないわけにはいかないようでした。

力を知られないことと、隠すことは違う。お前は、普通の人間じゃないことをそんなに恥じているのか?
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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