ハートの手紙のお礼

文字数 501文字

 ……渓谷沿いの小さな駅に電車がごとりと止まると、制服姿の高校生や大きなカバンの旅行客が乗り込んでくる。
相席、よろしいですか?
どうぞ。

 少年は窓際にちょっと身体をすくめて、器用にペンを走らせる。

「……さて、長々と書きましたが、幼稚ないわゆる中二病の絵空事と思っていただいたほうが気が楽です。お互い、そういうことにしておいたほうがいいのかもしれません」
……。
 鞄の中から取り出した小さな封筒にハートのシールが貼ってあるのに気付いたのか、相席の乗客が冷やかし気味に尋ねた。
恋人……さんですか?
 少年は意味深に微笑む。
ええ、まあ。

 再び手紙の続きが綴られる。

「……最後に、改めて手紙のお礼を申し上げます。

 まさか、豹真がお節介を焼いていたとは思いませんでしたが、それにしても電光石火の早業でしたね、理子さん。

 すぐに手紙をしたため、勿来高校に先回りするとは……」

……ほんとに。

 そこで眺めるのは、「勿来高校」のロゴが下半分に印刷された学校指定の封筒である。
この辺では聞かない名前ですね。
ええ、転校するんです。
こちらへ?
さあ……どうでしょう?
 曖昧な返事にそれっきり会話は途切れ、少年は手紙の結びにとりかかる。
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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