揺れる列車の中で

文字数 409文字

 田園の桜吹雪の中を、カーキ色に古びた赤字ローカル線の車両が走る。その揺れに身を任せながら、少年は手の中の小さなメモ帳を見た。

 再び、線路を行く車両の如く、便箋を美しい筆跡でペンが走る。

「町を離れてからも、僕はこの祝詞の全文をメモして持っています」

 ……。
 少年の思い出の中に蘇るのは、少女と交わした祝詞の続きだ。
『五種の穀とは何ぞや、何処より来しものぞ。一(ひと)二(ふた)・三(み)・四(よ)・五(いつ)数へて、速日、速水のもと培はん』
『米・麦・豆・粟・稗、月詠(つくよみ)の弑(しい)する保食神(うけもちのかみ)より来たりて、六(む)七(な)八(や)・九(こ)・十年(ととせ)、実りて生(な)して速日(はやひ)、速水(はやみ)祀らん』
『速日・速水いかに祀らん、五種の穀、十の歳、誰か継がん、いかに継がん』
『子に子が咲きて孫を抱き、春は山より迎えて、夏は里にて主(あるじ)し、秋は山へ送りて、冬は遠く崇めん』
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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