揺れる列車の中で
文字数 409文字
田園の桜吹雪の中を、カーキ色に古びた赤字ローカル線の車両が走る。その揺れに身を任せながら、少年は手の中の小さなメモ帳を見た。
再び、線路を行く車両の如く、便箋を美しい筆跡でペンが走る。
「町を離れてからも、僕はこの祝詞の全文をメモして持っています」
少年の思い出の中に蘇るのは、少女と交わした祝詞の続きだ。
『米・麦・豆・粟・稗、月詠(つくよみ)の弑(しい)する保食神(うけもちのかみ)より来たりて、六(む)・七(な)・八(や)・九(こ)・十年(ととせ)、実りて生(な)して速日(はやひ)、速水(はやみ)祀らん』