突然の事故

文字数 472文字

 やがて、練習は再開されましたが、やっぱり僕は「なんじ」をはっきり言うことができません。言葉も、できる限り差し替えてみました。
始めさもらへ、始めさもらへ、日御子の宣らしたまふや、なれ……。
もう1回。
始めさもらへ、始めさもらへ、日御子の宣らしたまふや、うぬ……。
そうやない。
……。
 しかし、どれだけやってもダメを出され、大人たちは露骨にうんざりした顔で僕を眺め、理子さんは溜息を吐き続けました。
ちょっと、休もうやないか。
 とうとう、シビレを切らしたらしい町内会長さんが前日と同様に休憩を提案した、そのときでした。
 あの事件が起こったのは。
わあああっ!
 ヤカンでお茶を出すための火をかけていた、カセットコンロのボンベが破裂しましたね。
火、早く、火、消して!
 あのとき、周りには誰もいなかったので怪我人はありませんでしたが、近くに遭った新聞紙に引火したので、役場から職員が駆けつけて消火器を掛ける騒ぎになりました。
 町内会長さんが平謝りに謝り、町の大事な行事ということで神楽そのものにお咎めはなかったようですが、その日の練習は中止になりましたよね。
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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