檜皮和洋の怒り

文字数 435文字

……それじゃまるで根性なしの新入社員だ。

そんなことは知らんな。何言ってんだ、言霊使いのプライド捨てて。

 プライドを捨てた覚えはありません。

 子どもの頃からどれだけ引っ越してきたでしょう。どれだけ父に職を変えさせたでしょう。母は、そんな生活に疲れたのか、去っていきました。

 もういい加減、静かに暮らしたかったのです。

 父から聞いていた彼の境遇は僕よりも過酷なのですから、そんな気持ちは話せば分かるはずでした。

できない。僕の力は使わない。君だって、使わずにやってこられたんだろ?
 豹真の言霊がどんなものかは分かりませんでしたが、人前で使えばタダで済むわけがありません。両親を失い、人の厄介になっている立場ではなおさらのことです。
使ったさ。言霊も、頭も。
……。

 顔を歪めて笑う豹真に、ぞっとするものが全身に走るのを感じました。

 言霊を使う者同士は、それが働く前から互いにそれを感じ取れると父から聞いたことがあります。でも、それを実感したのは初めてでした。

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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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