檜皮和洋の怒り
文字数 435文字
プライドを捨てた覚えはありません。
子どもの頃からどれだけ引っ越してきたでしょう。どれだけ父に職を変えさせたでしょう。母は、そんな生活に疲れたのか、去っていきました。
もういい加減、静かに暮らしたかったのです。
父から聞いていた彼の境遇は僕よりも過酷なのですから、そんな気持ちは話せば分かるはずでした。
豹真の言霊がどんなものかは分かりませんでしたが、人前で使えばタダで済むわけがありません。両親を失い、人の厄介になっている立場ではなおさらのことです。
顔を歪めて笑う豹真に、ぞっとするものが全身に走るのを感じました。
言霊を使う者同士は、それが働く前から互いにそれを感じ取れると父から聞いたことがあります。でも、それを実感したのは初めてでした。