豹真と笛

文字数 440文字

 町内会長さんの語る事情の中でも驚いたのは、豹真の父親がこの四十万町の出身だったということでした。
笛の……名手?
神楽のお囃子じゃ、腕は飛びぬけとったがな。
町を……どうして?
若い頃にふらりと町を出てしまってな……奥さんと豹真を連れて帰ってきたかと思ったら、急に亡くなってしまったんだわ。
でも、引き取られてきたって……?
……何で知ってる?
……い、いや、何でって。

 余計なことを言ってしまったと気付いて口ごもりましたが、それ以上は追及されませんでした。

 あまり責めると本当に祝詞を頼めなくなると思ったからでしょうか。

 それとも、そんなことを話すほど、豹真が僕に心を開いたように思えたからでしょうか。

奥さんも、豹真君連れて街を出てな、やがて亡くなって……引き取ったのは、お父さんの親戚なんやって。

そうでしたか……。

 そんな話を聞いてしまうと、よけいに豹真と戦うわけにはいかなくなります。

 ですが、豹真のことも気にかけている町内会長さんからの頼みごとを、無下に断るのも悪い気がしてきました。

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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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