流浪の選択
文字数 469文字
で、その夜のことです。
川の増水もたいしたことはなく、帰ってきた父と一緒にやってきた町内会長さんは、神楽と消防の丁重なお礼をいっぺんに言って帰られましたが、それは別にたいしたことではありません。
理子さんの所にも行かれたと思いますが、どんな様子でしたか?
その後、僕は父と、いつものようにお互いに向かい合って正座しました。
お互いに苦笑いすると、もう慣れっこになってしまった夜逃げ同然の荷作りが始まりました。決闘はどっちが勝ったかよく分かりませんが、天涯孤独の豹真のことを考えれば、僕たちが出ていくほうが無難です。
ところが、向こうはどうも、それでは納得できないようでした。
夜中に部屋の片づけをしていると、窓ガラスがこつんと鳴りました。何事かと思って近寄ってみると、家の前をうろうろしている小柄な影が見えます。慌てて玄関から出てみると、少し離れたところに豹真が立っていました。