流浪の選択

文字数 469文字

 で、その夜のことです。
どうもこんなことになってまって……何とも面目ない。
……いえいえ、要領の悪い息子でどうも。またお声を掛けてやってください。
 川の増水もたいしたことはなく、帰ってきた父と一緒にやってきた町内会長さんは、神楽と消防の丁重なお礼をいっぺんに言って帰られましたが、それは別にたいしたことではありません。

 理子さんの所にも行かれたと思いますが、どんな様子でしたか?

 その後、僕は父と、いつものようにお互いに向かい合って正座しました。

やっちまったな。
ごめんね。

 お互いに苦笑いすると、もう慣れっこになってしまった夜逃げ同然の荷作りが始まりました。決闘はどっちが勝ったかよく分かりませんが、天涯孤独の豹真のことを考えれば、僕たちが出ていくほうが無難です。

 ところが、向こうはどうも、それでは納得できないようでした。

 (……?)
 夜中に部屋の片づけをしていると、窓ガラスがこつんと鳴りました。何事かと思って近寄ってみると、家の前をうろうろしている小柄な影が見えます。慌てて玄関から出てみると、少し離れたところに豹真が立っていました。
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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