流浪の記憶

文字数 550文字

知ってる、檜皮ってさ……。
……ああ、あの、「雷少年」ってやつ?
噂でしょ? そんな、雨男とかそういう……。
ううん、だってほら、最近……。
だから何にもしゃべんないの?
何か、そういう噂。
……来た!
しっ……。
 聞こえていました。どんな噂が立ってるかぐらい、察しはついていましたし。
……。
ねえ、檜皮君?
……。

……ああ、檜皮君? 何でもない何でもない。 

……ちょっと、あんた!

……何よ?
……あの、僕に何か?
 僕たち言霊使いは、雨を操れる人ならばその言葉を避けることができます。ただし、どうしても会話が不自然になったり、無口になったりしがちです。
……ああ、いや、気にすんな。
……ごめん、私達、ちょっと。
……そう、あっちに用事が……なあ。
あ……うん、そ、そうね……。
そう……じゃあ。
 こういうのが嫌な人は、敢えて「雨男」の汚名を着て、行楽シーズンなどは爪はじきに甘んずるのですが、それはまだいいほうです。
ねえあんた、知ってる? 檜皮さんとこの息子さんって、さあ……。
お前、そういうことは言うもんじゃ、ない……。
だけど、ねえ……。
 湿気を招き寄せたり、風で砂ぼこりや海の波を立てたり、僕のように雷を落としたりといった人たちは、仮に事故を起こさなくても言葉遣いや立ち居振る舞いを気味悪がられ、転居を余儀なくされるのです。
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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