炎と祝詞と
文字数 400文字
誰の目をはばかることもないのなら、雷を呼ぶことなど造作もありません。たちまちのうちに空には暗雲が立ちこめ、満開の桜が照らすこの町を薄暗く覆いました。
しかし、豹真も本気でないわけがありません。
恐らく誰も気づいていなかったでしょうが、僕や理子さんの衣装からはうっすらと煙がたちのぼっていました。さらには、会場のあちこちにあるテントやのぼり、そして祭壇からも……。
豹真は見える相手に火を点ければ済みますが、僕はどこにいるか分からない相手に雷を命中させなければならないのです。
しかし、僕の心配をよそに、神楽は進行します。
理子さんは澄んだ声で、高らかに祝詞を返してきました。