結びの一言

文字数 496文字

 少女は、便箋を前にちょっと考え込んでいるようだった。カーテン越しの柔らかい光の中にかざして、眺めたり、透かしたりしていたが、意を決したように、再び書き始める。    

よしっ!
「進学のことを心配して下さってありがとうございます。私は、有馬高校へ行こうと思います。この地と共にあった刀根の家のことをくどくどと書いておいて何だと思われるかもしれませんが、出て行かないのが妥協の限界です。」    

書きすぎたかな……まあ、いいか。
 そこで再び、手が止まった。腕組みをして天井を眺めたり、鉛筆の端で前髪をかき上げたりして迷っている様子だったが、とりあえず、書き加えた。
これで……。
「この先、檜皮さんがどうされるか私には想像もできませんが、お元気でいてください」
……おしまいっ! ……じゃなくて。

 封筒に入れるべく、丁寧に便箋を折りたたんだ少女は、再びそれを開いた。

 にっこり微笑むと、最後の一筆を書き記す。

……ざまみろ。
「個人的な見解を述べさせていただくなら。

 やってきたかと思ったらいきなり出て行ってしまう檜皮さんという人間は意味不明です。

 もうちょっと自分をしっかり持ってください。 かしこ」

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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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