結びの一言
文字数 496文字
少女は、便箋を前にちょっと考え込んでいるようだった。カーテン越しの柔らかい光の中にかざして、眺めたり、透かしたりしていたが、意を決したように、再び書き始める。
「進学のことを心配して下さってありがとうございます。私は、有馬高校へ行こうと思います。この地と共にあった刀根の家のことをくどくどと書いておいて何だと思われるかもしれませんが、出て行かないのが妥協の限界です。」
そこで再び、手が止まった。腕組みをして天井を眺めたり、鉛筆の端で前髪をかき上げたりして迷っている様子だったが、とりあえず、書き加えた。
「この先、檜皮さんがどうされるか私には想像もできませんが、お元気でいてください」
封筒に入れるべく、丁寧に便箋を折りたたんだ少女は、再びそれを開いた。
にっこり微笑むと、最後の一筆を書き記す。
「個人的な見解を述べさせていただくなら。
やってきたかと思ったらいきなり出て行ってしまう檜皮さんという人間は意味不明です。
もうちょっと自分をしっかり持ってください。 かしこ」