オヤジの雷

文字数 392文字

しかし、本当の問題は、その夜に起こったのです。
お前は何を考えとるんだ!
 帰宅して夕方まで寝ていたところ、どう見ても定時に退勤したとしか思えないくらいの早い時間帯に帰った父が、「雷」を落としたのです。
父さん……? 早いね、今日は。
 父は痩せて背のひょろ高い男ですが、一旦怒ると、貧相な身体のどこから出るのかと思うような大声を出します。その勢いは、本物の雷にもひけをとりません。

 僕の言霊を鍛えたときも、ずっとこんな調子で怒鳴り通しでした。

和洋、ここ座れ、ここ。
 父の説教は、向かい合って正座というのが基本です。
……はい。
何で怒ってるか、心当たりはあるな?
……はい。
 僕はこういうとき、頭を下げるしかありません。

 いちいち説明しなくても、そこはもう阿吽の呼吸で分かるのです。

(そりゃ、バレるよな……言霊を使ったって)

(晴れた空にいきなりだもんなあ……)

(いくら遠いったって……春の雷が)

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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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