カッコ悪い男たち

文字数 588文字

ち……!
 とうとう豹真がプレーヤーの電源を切り、アンプとの接続ケーブルを力任せに全て引き抜いたかと思うと、公民館を飛び出してしまいました。
……おい!
 慌てた町内会長さんが後を追います。

 豹真との会話が、どんどん遠ざかっていくのが分かりました。

何だよ!
ちょい待て!
 声を荒らげた町内会長さんに、豹真がヤケを起こしたように喚き散らすのが聞こえました。
俺、もう帰る!
ああ、そのコード……。
 豹真自身よりも備品の心配をする町内会長さんが、冷ややかな反撃を食らったのも無理はないと思います。
これ、俺の私物!
それがないと……。
 困り果てる町内会長さんに、豹真はきっぱりと言い放ちました。
だったら俺が吹いてやるよ、笛くらい!

 堂々たる一言は、僕からすればそれまでの乱暴な振る舞いを大いに償って余りあるものでした。

 そこで次に出て行ったのは、さっき僕を怒鳴りつけた人です。

……。

 いい年をして、はるか年少の者にきちんと謝ることもできないようです。

 それに続いて、他の大人たちもぶつくさいいながら帰ってしまいました。

(……大変なことになっちゃった)

(……理子さん、どう思ってるだろ)

……。
 残ったのは、僕と理子さんだけでしたが、理子さんの顔色を伺うと、思いっきりそっぽを向かれて心がひしゃげました。
カッコ悪……。
 思わずつぶやくと、春の強い風がどっと吹いてきて、窓ガラスをガタガタ揺らしました。
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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