人を未来へとつなぐもの

文字数 448文字

(……早く見つけ出さないと!)
 観客を巻き込んだ大惨事になれば、身体の傷だけでは済みません。この神楽を続けることはできなくなり、町内の人を過去から未来へとつなぐ絆が一つ失われるのです。
(豹真! お前の母さんだって……この町とつながっていられたら!)
 僕は祝詞を上げながら、豹真の姿を探しました。
……五種の穀とは何ぞや、何処より来しものぞ。・五 数へて、速日、速水のもと培はん。
 祝詞と共に数えているうちに気持ちが落ち着き、考えもまとまりました。

(……ひとつ。ふたつ。みっつ。よっつ。いつつ)

(……豹真は、僕たちを見てる)

(……つまり、間には障害物がない)

(……だから、僕からも豹真が見える!)

 僕は辺りをもう一度見渡しました。
(……目立たない、でも、障害物のないところだ)
 眼を凝らすと、駐車場の向こうにある町役場の車寄せで、屋根を支える柱にもたれかかっている背の低い人影が見えます。
……。
(……豹真!)
 しかも、屋根の下ではなく、雷を落とせと言わんばかりの外側で。
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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