ヒノキとトネリコとの出会い

文字数 368文字

始めさもらへ、始めさもらへ、日御子の宣(の)らしたまふや、汝(なんじ)……。
 もちろん、慣れない昔の言葉の羅列をいきなり声にしろと言われて、できるものではありません。

 最後の「汝」を呑み込まざるを得なかったのは、怪我の功名といったところでしょうか。

……。
……

 桜どころか、まだ朝晩が肌寒い頃でした。

 あなたのまなざしに同じ冷たさを感じて、僕は言葉も出なかったのです。

 あのとき、町内会長さんがあのタイミングであなたを紹介したのは、同じ空気を察したからでしょう。

こちら、刀祢理子さん。
 そう言われても、すっかりすくみ上がってしまった僕は初対面の挨拶もできませんでした。
……。

 こう思ったからです。

(……とねりこ?)

(……何でガーデニングの話なんか?)

(……そりゃ、季節だけど)

 まさか、あなたの名前だとは、その時は考えもつきませんでした。

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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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