炎の予兆

文字数 466文字

この日御子神楽ができなくなったとき、これに関わっている人たち全員を納得させる責任です。それができないのに難癖だけつけるなんて、口答えを覚えた幼児のすることです。
……!
(……まさか、豹真!)
 豹真の口元が歪んだのを見たとき、朝に起こったカセットコンロのことが思い出されました。さかのぼって、「バカはどれだけ傷ついてもいい」、そして、「使ったさ、言霊も、頭も」……。
じゃあ、降りりゃいいだろ、神楽。そこまで受験が大事なら、な。
……!
 言霊ではなく、嘲笑で返した豹真に、今度は理子さんが言葉に詰まりました。
勉強がどうとかいいながら、これやってる時点でサボってんだろ。で、それをおふくろさんだの町内会長だの引合いに出してごまかしてんだろ。
違うわ! 私は……。

 理子さんが声を荒らげたとき、空が一瞬だけ陰りました。僕はそれに気をとられて見上げていたので、理子さんと豹真がどんな顔をしていたかは分かりません。

 ただ、気を持たせるような勿体ぶった口調で、豹真がこう言うのだけは聞こえました。

そんな中途半端な気持ちは、どっちかを葬らないとなあ……。
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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