炎の妨害者

文字数 440文字

 理子さんの表情は全く変わっていなかったので、照れ臭いとも思いませんでした。

 さらに、拍手の割に褒め言葉もなく、僕はすぐに祝詞を挙げさせられたのです。理子さんの手拍子に合わせて。

 始め・さもらへ、始め・さもらへ、日(ひ)の・御子の・宣らし・たまふや……。

 しかし、「なんじ」と続けることはできませんでした。口にできなかったわけではありません。リズムに乗せられて、本当に喉まで出かかっていたのです。もし、本当に声になっていたら、広い河原の落雷という、危険な状況になっていたでしょう。

 しかし、その落雷を阻んだのは、僕の意思ではありません。

何やってんだよ。どっちみち上げられやしねえのに、その祝詞。みっともねえ。
 そう、河原に踏み込んできた豹真でした。
……樫井さん?
 理子さんがためらいがちに声を掛けたのは、当然の礼儀だったと思います。

 別に同じ学校に通っているわけでもなく、ただ「日御子神楽」に関わっているというだけなのですから。

 しかし、理子さんは豹真の眼中にはありませんでした。

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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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