檜皮和洋から刀根理子への手紙
文字数 552文字
車両は軽快な音を立てて揺れる。
だが、そんなところで書く手紙には慣れているのか、少年は整った文字を書き連ねていく。
「拝啓
桜満開の季節となりましたが、いかがお過ごしでしょうか。
先日は何の挨拶もなく四十万町と私立勿来高校を離れることになってしまい、本当に申し訳なく思っています。
それだけに、理子さんの手紙がいかにもラブレターという体裁で(封印にハートのシールというのはベタすぎます)、転学先への資料として渡される学校紹介パンフレットに入っていたことはたいへんに驚きましたが、読んでみて理由がすぐに納得できました」
少年は手紙を書く手を止めると、鞄の中から大事そうに淡いブルーの封筒を取り出す。手紙を開いて少し微笑むと、また丁寧に畳んで元のクリアファイルに戻した。
そこで、2両しかない列車はごとりと停車する。
駅の周りには桜が植えてあるのだろう、折からの風に、窓の外では花びらが吹雪となって舞い散った。
少年は何かに憑かれたように、短い停車時間を手紙に費やす。