祝詞を降りる

文字数 423文字

すみません。
 町内会長さんに気後れを感じながら、さっきの豹真に対するよりも神妙な態度で頭を下げました。
ま、まあ、こっちへ。
 町内会長さんは慌てて、僕を畳の間に招きます。脱いだ靴を丁寧に揃えた僕は、アグラをかいた町内会長さんの前で正座しました。
……失礼します。
まあ、そんなに固くならんと。
 僕は返事もしないで平伏しました。
 ……どうしないた?
すみません、僕、祝詞は上げられません。
 ぴしゃ、と額が鳴る音がしました。手で叩く音です。

 顔を上げると、町内会長さんが実に情けない顔でへたりこんでいました。

ほれは困るわ、和洋くんが最後の砦やったんやで。
僕が?
 話を聞いてみると、町内会長さんも大変な思いをしていました。

若い人はほれ、おらんようになってまうし……少子高齢化っていうんか? こういう昔っからの祭も、まあ、一休みするようになってなあ……。

(……なくなった、とは絶対に言わないんだな)

この辺の高校の先生とかな、頼らんなん。こんな祝詞ひとつでも……。

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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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